真夏の太陽の下を歩いたことで流れる汗を拭い、斜めがけしたバッグからスマホを取り出した。画面を触り、現在の時刻を確認する。

 九時四十二分。

 約束の時間は十時だった。まだ少し余裕がある。

 プリントを挟んだファイルやノートなどを入れているバッグにスマホをしまった杉谷歩夢(すぎたにあゆむ)は、ここから後五分程度歩いた先にある、歩夢の唯一の友人である西条直輝(さいじょうなおき)の自宅を目指していた。彼の自宅が歩夢の目的地だ。今日は直輝と夏休みの課題を一緒にやりつつ、適当に遊ぶ約束をしているのだった。

 歩夢は直輝の家へと向かう道中にあるコンビニへ、吸い込まれるように足を向けた。あまりの暑さに息も切れていて、数分の間でも冷房の効いた室内で涼もうと考えての行動だった。

 コンビニの出入り口を開け、中の涼しさに小さく息を吐く。不審がられないよう、そこで立ち止まることなく店内を見て周り、なんとはなしにアイスケースの中を覗き込んだ。夏はアイスが食べたくなる時期だ。一通りざっと見て、カップのバニラアイスを二つ、まとめて手に取った。何かを買うつもりはなかったが、コンビニで涼んだついでだ。差し入れと称して、直輝と一緒に同じものを食べられたらいい。

 レジでスムーズに会計を終え、コンビニを後にする。瞬間、多少なりとも冷えていた身体が外の熱気に包まれた。踵を返したくなってしまったが、いつまでも道草を食っているわけにもいかない。

 袋に詰めてもらったアイス二つと木製のスプーン二本の僅かな重みを片手に感じながら、今度こそまっすぐ、直輝の待つ自宅へと歩みを進める。