「し……信じられないわ。演技よね⁈ お前は悪役令嬢のララコスティなんだから!」
「演技ではございません。わたくしは自分が何者だったのか、本当に思い出せないのです」
「だってお前は、大好きなタカフミィーニとイチャついてるじゃない⁈ 婚約破棄されて自由な恋愛を楽しもうとしているんでしょ!」
「わたくしは……タカフミィーニさまのこともわかりませんでした。ただ、あの御方に助けられ、気にかけて頂いてるだけです」

するとサラーニャが驚きの表情を見せた。

「助けられた? もしや、あの時……」
「あの時ってなに⁈ サラーニャ?」
「じ、実は……」

サラーニャさまが小声で何かを耳打ちしている。それを聞いたモモシャリーさまは驚きと興奮でお顔が紅潮しているのが見て取れた。

一体何でしょう。わたくしの記憶喪失に関する秘密でも知ってるのでしょうか?

「ララコスティ、もう今日は下がって宜しいわ。あ、愛しの騎士が訪ねて来ても絶対会っちゃダメ! いいこと?」
「……かしこまりました。では失礼いたします」

わたくしはうなだれて部屋を後にした──。

「サラーニャ、どうやら本当みたいね」
「まさかの展開です」
「でもなんだか安心したわ。あの悪役令嬢のこと、いつか牙を向けてくるんじゃないかって思ってたから」
「如何されますか?」
「そうねー、これで遠慮は要らないわ。とことん虐めましょう。おーほほほほほ!」

***

わたくしは奴隷部屋のベッドに横たわっていた。

悲しさで胸が張り裂けそうな心持ちなの。彼から頂いた大切なゼラニウムを見つめながら、どうかいつまでも綺麗なお花でいてくださいって、そう願った……。

「ララコスティさま、どうされましたか? タカフミィーニさまがお越しになってますよ」
「タカフミィーニさまが⁈」
「さぁ、元気出して」
「……アプレン、体調が優れないの。申し訳ないけどお会いできないって伝えてくれる?」
「大丈夫ですか⁈ わかりました。伝えます」

わたくしは泣いた──。泣き崩れた。

ああ、もう2度とあの御方に逢うことができない。なんて悲しいことでしょう……。

「ララコスティさま、日を改めて参りますとのことです。あの……なぜお泣きになられるのですか?」
「ううっ……アプレン、実はね……」

思わずモモシャリーさまに言いつけられた事情を話してしまった。

「そんな! 誰とどう会おうが邪魔する方がおかしいです!」
「いいのよ、アプレン。所詮は身分違いの恋ですの。このまま終わりにしましょう」
「ララコスティさま……」

──ああ、さよなら。愛しきタカフミィーニさま。もう貴方に逢えないなんて辛いですわ。……でも仕方ありません。今までありがとうございました。