「おーほほほほほほほ! 落ちぶれたわね、ララコスティ!」

落ちぶれたも何も、以前のわたくしがどんな人物だったのか知らないのです。ただ今は召使い──そう、奴隷階級ですもの。

「私は子供の頃からお前に嫉妬していた。貴族院首席で完璧な淑女、将来はこの国の王妃さまにねぇ。あー、今のお前を見てると気分が最高だわ!」

わたくしが王妃ですって? 何を仰ってるのかしら。きっとおからかいになられてるんだわ。

「もう下がって宜しい」
「はい、失礼いたします」
「おい、ララコスティ。ゼアス家の公務室は無論のこと、特にこのお部屋はモモシャリーさまがよく御使いになられる。だからいつも綺麗にしておくんだ。いいな?」
「かしこまりました。サラーニャさま」

***

それから毎日ただひたすら召使いとして働き続けた。ゼアス家の公務室はどのお部屋よりも美しく、モモシャリーさまがお越しになれば粗相のないよう努めたつもりだった。でもある日のこと……。

「お前、騎士団のタカフミィーニと時々逢引してるようだな」
「え⁈ サラーニャさま、逢引だなんて」
「これは問題ですね。モモシャリーさま」
「ララコスティは彼のことが好きなのよ。でもね、騎士団と言えば貴族が作った軍隊。奴隷とは不釣り合いではないかしら?」
「は、はい……仰る通りです。モモシャリーさま」
「そう、わかったようね。じゃあ今後、彼と会うことを禁じるわ!」
「……!」

そ、そんな……わたくしの唯一の楽しみなのです。それだけは、それだけはどうかお許しくださいっ!

──と、叫びたかった。でも言えない。

「返事をしろ!」
「……」

わたくしは泣きそうになった。

いくらご主人様の命令とはいえ、これは辛いわ……。

「ふーん、顔色が変わったわね、ララコスティ」
「お前っ!」
「まぁまぁ、サラーニャ」

サラーニャさまが凄い形相で睨んでおられる。ぶたれると思った。

「ララコスティ、本音で話したらどう? あまりにもしおらしくなって段々つまんなくなってきたの。許すわ、言いたいことを言いなさい」
「も、申し訳ございません。彼はわたくしの病気をご心配なされて……その、励ましてくださって……だからわたくしは……」
「ちょっと待って。病気⁈ なんの⁈」
「あ……」

つい余計なことを。でも彼と会えなくなるのはイヤ、イヤなの! もう白状しますわ!

「わたくし、どこかで頭をぶつけて記憶を無くしているんです。だから過去のことは何もわかりません」
「なんですって⁈ お前、記憶喪失なの⁈」
「はい。黙っていて申し訳ございません──」