宮殿の中にあるゼアス公爵家の公務室は広く豪華絢爛な空間だった。その中にはいくつかのくつろげる小部屋があり、素敵なご令嬢さまがわたくしを待っていたようだ。

「ララコスティ、このドレス似合うかしら?」
「モモシャリーさま、とってもお似合いです」
「あらー、お前がパーティで着てたドレスなのよ」
「ご、ご冗談を」
「うん⁈ とぼけてるの? ま、いいか。それよりお紅茶ちょうだい! 早くして!」
「かしこまりました」

わたくしは急いでお紅茶の準備をする。その間、モモシャリーさまたちの会話が漏れ聞こえてきた。

「あの召使い……性格が変わったようですが、自分の運命を受け入れたのでしょうか?」
「サラーニャ、騙されてはいけませんよ。なんせ悪役令嬢ですから。何かお考えがあってのこと」

うーん、わたくしはものすごく性格の悪い女性だったようですね。でも何のことだかさっぱり思い出せない。なーんて考えている暇もないわ。急がなくっちゃ!

「お紅茶をお持ちいたしました」
「…………」

モモシャリーさまは何も言わずお紅茶を口にするけど、「あら」とスプーンを床へ落とされてしまった。

「拾いなさい。ララコスティ」
「は、はい」

わたくしは慌ててスプーンを拾い、取り替えに行く。モモシャリーさまたちの失笑する声が聞こえた。

「ああそうそう、ララコスティ。お前の親だけど」
「あ、はい」

親? どんなお顔だったかしら? 全く覚えてないわ。

「公爵位剥奪の上、昨日国外に追放されましたの。どこへ行ったのか知りたくない?」
「いえ。知ったところでお会いできないと存じますので」
「なーに、可愛くないわねぇ。心配じゃないの?」
「心配では……あります」

記憶がないから哀しみがあまりないの。

「隣のお国ね。悲惨よ。内戦が長引いてて、うまく生活できるのかしら。命の保証もないわ」
「そうなんですね」
「ララコスティ、お前は安全なここにいて良かったでしょう。私のおかげよ。感謝しなさい」
「それはご配慮いただきありがとうございます」
「おい、ひざまずくんだよ!」

サラーニャさまに髪の毛を掴まれ引っ張られた。

い、いたーい!

「も、申し訳ございません」

わたくしは床へ這いつくばり御礼を申し上げる。

「助けていただきありがとうございます。この上はモモシャリーさまに忠誠をお誓いいたしますー」