アプレンから身分や状況を説明されたけど、まるでピンとこないわ。それどころか、生まれた時からボロボロの奴隷服を着て、一日中働くのが当たり前だと思っている。

「何があったのか存じませんが、無理をなさらないでくださいね」
「うん、ありがとう、アプレン」

広い宮殿の敷地内にある奴隷部屋がわたくしの生活拠点。そして、この宮殿にあるゼアス公爵家の公務室に奉仕する召使いということらしい。

何をやっていいのか分からないことだらけなので、アプレンや奴隷仲間から仕事を教わりながら日々を過ごしている。

楽しみと言えば……わたくしを助けたとされる騎士団のタカフミィーニさまが時折訪れること。

「ララコスティさま、お身体の調子はいかがですか?」
「あら、タカフミィーニさま。奴隷のわたくしに “さま” などつけてお呼びにならないでください。おかげさまで元気になりましたわ」
「貴女は奴隷ではありません。私から見れば雲の上のご令嬢さまです」
「……過去の記憶はございませんの。今はただの召使いです」
「私がもっと早く気がついて助けられたなら、こんなことにはならなかった……申し訳ありません」
「どうか、お気になさらないでください。わたくしは十分に感謝していますわ」
「……貴女が記憶を戻すまで、何度でもここへ参ります」

まぁ、ならいっそ記憶など戻らないほうが……。

「あ、そうだ。ララコスティさま、本日は敷地内にゼラニウムが咲いてましたのでお持ちしました。窓辺に飾ってみてはと思いまして……」

タカフミィーニさまから真っ赤に染まった綺麗なお花を渡されると、わたくしは胸が熱くなった。これが『ときめき』というのかしら。

「わー! お美しいお花だこと!」

お花を窓辺へ飾り、タカフミィーニさまと眺める。そんなつかの間の幸せは、女官サラーニャによってあっさりと引き裂かれた。

「おうおう! 噂は本当なんだな、ララコスティ」
「サ、サラーニャさま! 噂ってどういうことでしょう⁈」
「殿方の前では言えんわ。それより公務室へ来い。モモシャリーさまのお世話をするんだ」
「は、はい」
「ん、……お前、随分としおらしくなったんだな。ふふん、ようやく自分の立場を思い知ったか」

何を仰っているのでしょう?

「わたくしはゼアス家の召使いでございます」