会場がざわつき、全員が主役のシンクリア王子やモモシャリーよりもわたくしに注目する。そして、召使いを指揮していたサラーニャが、鬼の形相で怒鳴りつけてきた。

「お前ーっ! どの面下げて来たんだ! それにその派手なドレスは何だ⁈ 奴隷如きが身分をわきまえろ!」

サラーニャが迫ってくる中、団員たちがわたくしを護衛するために周りを固める。

「あらあら、お騒がしいこと。女官さん、わたくしも同級生として婚約パーティーに参った次第ですが?」

わたくしは招待状を差し出した。

「あっ、それは捨てろと命じただろうが!」
「命じた? 公爵家に対して女官如きが何を命じるのかしら。お前こそ身分をわきまえよっ!」
「なっ……何を言ってるんだ⁈ お前はゼアス家の召使いだろ。それを忘れたか⁈」
「召使いごっこは終わったのよ、サラーニャ!」
「終わった⁈ 何を勝手なことを⁈」
「王子に婚約破棄されたわたくしの罪は解かれたのよ」

婚約パーティーを台無しにされたモモシャリーが堪らず口を挟んだ。

「ララコスティ、どうして騎士団を巻き込んでこのパーティーを滅茶苦茶にしようとしてるのか理解できないけど、あなたって本当は記憶喪失じゃなかったのね? あれは演技だったのね、さすがは悪役令嬢ね!」
「演技ですって⁈ ふざけないでくださる⁈ わたくしはこの女官に階段から突き落とされて記憶を失ったのよ? あれは立派な傷害罪ですわ!」

護衛していた団員たちが今度はサラーニャを取り囲んだ。

「ちょっと待て……証拠があるのか⁈」

すると突如、大勢の騎士団がパーティー会場へ押し寄せて来た。

「──証拠なら私が目撃している!」

タカフミィーニさま、お待ちしてましたー!

「何て仰々しいんだ……」
「騎士団長の私が見ていたのだ。サラーニャ、お前を傷害罪で連行する!」
「あ、あー……」

抵抗する間もなくサラーニャは押し倒され、後ろ手に縄を括られる。

「待て、タカフミィーニ! 王子である私の前で一体何のマネだ、無礼であろう!」
「王子さま、大変失礼致しました。婚約パーティーを邪魔する気は毛頭ございません。私はただ犯罪者を捕まえに来ただけです。どうか、盛大にお祝いなさってください」
「いや許さん、許さんぞ! サラーニャを即刻解放せよ! これは私の命令だ!」
「……いくらあなたの命令でも従いかねます」
「私の命を聞けぬと申すのか⁈ お前こそ反逆罪で捕らえるぞ!」
「シンクリア王子さま、ララコスティも私たちの婚約パーティーを害した罪で捕らえるべきかと?」
「そうだな、モモシャリーの言う通りだ。おい、こいつらを確保しろ!」

しかし、騎士団は誰一人として王子の命令を聞かない。

「何をしている⁈ 次期国王である私の命だぞ!」
「……次期国王? シンクリア、誰が決めたのだ?」

──その御方はあまりにも突然現れた。

あっ、あれは国王陛下……! 陛下がおいでになられたわ! 何ということでしょう!