わたくしはこの書類こそが「ゼアス家の陰謀」と言われている決定的な証拠だと確信した。

「とにかく、これを持ち出さないと!」

慌てて書類を掻き集めて公務室から出ようとしたその時、アプレンが手を大きく振ってわたくしを制止した。何とサラーニャが公務室へ向かっているのだ。

「マズイわ、どうしましょう⁈」

沢山の書類を持った状態では、ここを突破するのは難しい。

「ララコスティさま、如何されましたか?」
「アプレン、ここから逃げたいの!」
「何かを掴みましたね。よーし、僕に任せて!」
「どうするの?」
「僕がサラーニャさまを引きつけておくから!」
「無茶しないで、アイツは怪力なのよ」
「大丈夫さ!」

サラーニャが間近に迫っていた。わたくしは一旦公務室へ戻り様子を伺う。

「おい、ララコスティは中に居るのか?」
「サラーニャさま! そ、それがですね、こちらで大変なことがありまして……」

アプレンは公務室を通り越した廊下までサラーニャを誘導していく。

「あん⁈ 何だ?」

わたくしはそーっと覗く。アプレンは目で「逃げろ!」と合図をした。幸い後ろ姿のサラーニャには気付かれていない。

「うん! 今だわ!」

慎重に廊下へ一歩踏み出し、そのまま一気に階段まで走った。でもアプレンのことが気になって振り返ってみる。すると何やら揉めているような光景が目に映った。

「あぁ、このままわたくしだけ行っていいの⁈ アプレンはサラーニャに折檻されるかもしれないわ。やっぱり見捨てるわけにはいかないっ!」

わたくしは意を決した。

「アプレン、逃げてーー!」
「あっ、ララコスティ! お、お前、そこで何してるんだ!」

サラーニャが振り返った隙にアプレンが猛ダッシュして逃げる。

「こらあ、待てえーーーっ!」

鬼の形相でサラーニャが追う。階段を降り切ったわたくしたちに頭上から怒鳴り声が聞こえた。

「おーい、そこの騎士たちィ、その者らを捕らえよーっ!」

宮殿を警護している騎士団へ呼びかけたのだ。あっという間に数人の騎士がわたくしたちを取り囲む。

「あぁっ……!」
「ふふふ、良い度胸してるじゃないか? ララコスティ。二度とそんなマネしないよう、念入りに折檻せんとな……さ、来るんだ!」

しかし、騎士団はわたくしたちの盾となり、サラーニャへの引き渡しを拒んだ。

「あん⁈ 何をしてる?」

騎士団の行動に理解できない彼女の前に、後方から一人の騎士が現れた。

「そこまでだ、サラーニャ!」

──ええっ、タ、タカフミィーニさまあーー⁈