「……あなたは記憶が飛んでしまって勘違いしてるのよ。その衣装は、きっとどこかの同級生からお情けで頂いたのだわ」

ふん、違うわよ! と言いたいけれど、記憶が戻っていることがバレたら困るから、これ以上はやめておこう。

「申し訳ございません。わたくしの思い違いでした」
「でしょう! でも気になるわ、誰が同情したのかしら」
「もはや記憶にございません」

それにしても──。

モモシャリーはルイ家が国外追放されたと思い込んでいるわ。確かにシンクリア王子はあのパーティで命令したよね。でも実際は国王の密命で隣国へ赴任しているだけ。ん? そうか、密命だから王子には知らされていないのね。じゃあ、王子の命令は何だったの? あー、考えればわからないことだらけだわ。とにかくタカフミィーニさまが仰ってた「ゼアス家の仕掛けた陰謀」を探るしかないわね!

***

あれから約一ヶ月が経過したけど何も掴むことができず、気がつけば同窓会を兼ねた婚約パーティが間近に迫っていた。わたくしはその会場でもゼアス家の召使いとしてお給仕をするよう命令されている。

そんなある日のこと。

「ララコスティさま、休日の宮殿は人の出入りが少なくて良いですね。」
「あ、今日は休日なのね。アプレン。」

召使いには休日は関係ない。でも、公務室に誰もいないのはチャンスよ。今日こそは何か見つけなくっちゃ!

「わたくしはゼアスさまのお部屋を探るから、見張っていてね。」
「うん、お任せください!」

さて、何度もお掃除しているこのお部屋は、机の中から書棚に至るまで全てを把握している。いつものようにお掃除しながら探索してみるけれど……。

「うーん、特に変化はないなあ。書類で怪しいものはないし、書籍が増えているわけでもないし。はぁー……」

書棚には本がぎっしりと詰められているが、ある箇所だけ常に何も置かれていない。それを眺めながらもう一度ため息を吐き、空の棚にもたれかかった。その時だった。棚の一部がゴゴゴッと音を立てながら回転し、わたくしは思わずバランスを崩して倒れてしまった。

「えっ⁈ えーーっ! これ扉なの⁈」

そこで見た光景に驚愕した。

「隠し部屋ってこと⁈ 何なのここは⁈ ハッ! あれは金塊、しかも大量にあるわ!」

わたくしは起き上がって、恐る恐る金塊が積まれたテーブルの前に立った。

「何でこんなに金塊があるの⁈ ここは宮殿の金庫室じゃないのに!」

怪しいわ、すごく怪しい。

この小さな隠し部屋には金塊の他にも金貨、宝飾品などが棚にズラーッと並べられている。その棚の引き出しを開けると怪しげな書類が目に入った。それを手に取って見ると……。

「こ、これは不当に入手した金貨、金塊の流れが記されているわ。それに色んな方々への献金記録も……」