「改めて申し渡す! ララコスティ、そなたとの婚約を破棄する! そしてルイ公爵家は国外追放だ。どこへなりとも消え去るがよい!」

今日はわたくしララコスティとシンクリア第一王子の婚約記念パーティーのはずだった。

それが……なんなの、この公開処刑。公衆の面前でよくも、こんな恥を!

「全く納得できませんが、王子様がおっしゃるのであれば、謹んでお受けいたします。ただし、理由をお聞かせください」
「ふんっ、以前からお前の素行の悪さを耳にしていたのだ。私はもう我慢ならない!」
「はぁ? 素行の悪さですって⁈ わたくしが一体何をしたと?」
「ならば言おう。お前は騎士団のタカフミィーニに恋しているのではないのか? 私が何も知らないとでも思っていたのか、この悪役令嬢めが!」

辺りがざわついた。驚きと軽蔑と悪意の入り混じった視線がわたくしを突き刺す。

ほーう、片想いだけどバレてたのね。でもこのことを知っているのは親友のモモシャリーだけ……。

「お待ちください、シンクリア王子様!」
「モモシャリー⁈」
「公爵家が国外追放だなんて、あまりにも理不尽でございます!」

モモシャリー、なぜ助けるの? 秘密をばらした罪悪感から?

「せめてこのララコスティ様だけでも宮殿に残してくださいませ。私の親友でございます!」
「おお、君はなんて心優しき淑女なのだ……」

モモシャリーは王子の袖に隠れ、わたくしを見ながら冷酷な笑みを浮かべる。

くっ、やってくれたわね、親友だと思ってたのにっ。

「どうするんだ、モモシャリー?」
「私が……ゼアス家が面倒を見たいと思います」
「いいのか……こんな悪役令嬢を⁈」

ふん、なんとでも言いなさい。そしてモモシャリー? 王子の前では純粋な乙女を演じて、まったく食えないわね。何が淑女ですか!

──ここは近世ヨーロッパのとある国。

我がルイ家とモモシャリーのゼアス家は公爵家の覇権争いの真っ只中だった。でもそれは親同士の争いごと。よもや令嬢をスパイに使ってまでルイ家を陥れようとは夢にも思わなかった。

まぁ、王子が言っている悪役令嬢との噂は間違いではないが……。

わたくしはわずかだけど前世の記憶があった。無論、このことは親にも内緒にしている。ただ、愛し合っていた男性と引き裂かれた辛い思い出があった。それがこの宮殿に仕える騎士団のタカフミィーニ様にそっくりだったの。信じられない。運命を感じたわ。

それでもわたくしは、親が決めた王子様との婚約が子供の頃から決まっていた。だから自分の気持ちを隠して運命を受け入れる覚悟だった。皇室にふさわしい淑女になるために自分に厳しく、時には周りへも。それがいつしか「悪役令嬢」と陰口を叩かれ始めたわ。仕方ないと思ってたけど、どこか孤独を感じていた。そんなある日、モモシャリーが味方をしてくれた。いつも側にいて。

わたくしはつい「騎士団に恋してる」って言っちゃったの。はぁぁぁ、一生の不覚……。

「では改めて申し渡す。本来ならお前の顔など見たくもないが、モモシャリーの慈悲で国外追放は撤回してやる。お前は本日よりゼアス家付きの召使いとしてこの宮殿に仕えるがよい」

ふっ、ご冗談にも程があります。

「謹んでお断りいたします。ゼアス家ごときの召使いだなんて真っ平ごめんですわ!」
「な、なんだと⁈」

だいたい、傲慢なシンクリア王子など、子供の頃から大っ嫌いだったの。婚約破棄? 上等ですわ。あー、清々する。こんな陰謀渦巻く宮殿なんてこっちから願い下げよ!

「では、御機嫌よう~」