布団に座ってイルカの抱き枕を眺める青倉。


小学生の頃、1人で眠れなくなった私のために両親が贈ってくれたもの。

当時から毎日一緒に寝ているので、ワンシーズンに1回は洗濯している。


って、今は説明してる場合じゃなくて……。



「ピンクだからピーちゃんかな? え? 涼馬くんかっこいい? マジ? 嬉しいなぁ。じゃあ一緒に寝る? うん!」

「ちょっと、勝手に連れてかないでよ……!」



一人芝居を繰り広げる彼から抱き枕を強引に奪い取る。

まったくもうっ。油断も隙もない。



「タチの悪い冗談はやめて」

「ごめんごめん。可愛くてつい」

「あと、ピーちゃんじゃなくて、ももちゃんだか……」



名前を訂正しようと口を開くも。

言い終わる前に「シーッ」と彼の人差し指が私の口元に当てられて……。



「そんなに騒いだら、また来ちゃうよ?」



ふふっとイタズラっぽく笑われた。

顔中に熱が集まり、唇を噛みしめて睨みつける。



「もー、そんなに怒んないの。可愛い顔が台無しだぞー」

「なっ……!」

「じゃあまたな。おやすみ」



勉強道具をササッとまとめた青倉は、口をパクパクさせる私ににこやかに手を振って和室を出ていった。


なにが、また来ちゃうよ? だ。
なにが、台無しだぞー、だ。

元はと言えば、そっちが発端でしょう……!?


自分も教科書を片づけて床に就くも、目が冴えてしまい、なかなか寝つけず。

翌朝、目の下のクマが復活したのは言うまでもない。