「あのね、無世くん。」
「……はい。」
真剣な様子の有世さん。まぁ、嫌われたかな。……まぁ、0が0になっただけだ。
「私ね、敬語とか”さん”ずけとか嫌いなの!だって他人って感じしない?クラスメイトなんだから、他人じゃないでしょ?」
「……え。」
敬語はわかる。でも”さん”ずけ、ダメなの?
「今までは転校生だから無世くんって呼んでたけど、無世でいいよね?」
「え、あ、うん……。」
「よし!よろしくね無世。」
え?え?なにこのときめき。え?え?……こうしてぼくの一日は有世さん……有世に埋め尽くされたのだった……。

その日の夜。家に、姉さんから電話がかかってきた。
『もしもし、律斗?姉さんだけど。』
「姉さん。」
姉さんの名前は澤本里美(さわもと さとみ)。なぜぼくと苗字が違うかというととーっても簡単な話。姉さんは結婚したからだ。
『今日初登校でしょ?どうだった?』
「どうって……。クラスメイトたちはみんないい人だったよ。」
そういいながらも、思い出すのは有世の顔。そばにあったブラックコーヒーを飲みながら電話をスピーカーフォンに切り替えた。
『ねぇ、クラスメイトに有世来花ちゃんっていた?』
「ぶはぁっ!」
飲んでいたブラックコーヒーを吹き出してしまった。机がコーヒー色に染まる。うわぁ、最悪……。
「なんで姉さんが有世のこと知ってるのさ。」
『あ、やっぱりいるのね!有世ちゃんがいるなら律斗もぼっちにならないね。それじゃあね!』
「ちょっ……!ねえさ……。」
ツー、ツー、ツー……。電話を切りやがった、あの人。

◇◇◇◇◇
次の日。国語の授業中。私・有世来花は無世くんーならぬ無世のことを考えていた。なんか不思議な子だったなぁ……。暗ーく沈んでたし。部活に未練でもあるのか?

「ねぇねぇ来花。」
授業後。一人の女子が私に話かけてきた。名前は小川琉美絵(おがわ るみえ)。夏美が一番の友達だけど、琉美絵も超大事な友達だよ。そういえば最近話せてなかったからね。
「あの、来花ちゃん。」
「あ、李江ちゃん。」
琉美絵の後ろにいたのは小川李江(おがわ りえ)ちゃん。今年同じクラスになった子。同じ小川のよしみで仲がいいみたい。
「あのさ来花。さっき無世くんと話してたでしょ?」
「え?無世?うん、まぁね。」
琉美絵の口から思いがけない名前が出てきたから正直びっくり。まさか、だけど、琉美絵……。
「ねぇ、無世くんってかっこいいと思わない?私、ねらっちゃおうかな。」
「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーー!!??」
「こ、声が大きいよ、来花ちゃん。琉美絵。」
思わず絶叫してしまった私に、李江ちゃんの注意が入った。いや、でもでもでも!?
実は、昨日までずっと、琉美絵は川村くんのことが好きだったんだよ。でも、夏美の彼氏になったから、つまりは失恋。でも!?昨日の今日でもう川村くんから無世に乗り換えているとは!琉美絵がメンクイなのは知ってるけど、恋中毒なのか⁉
「川村くんはいいの?」
「だって、しょうがないじゃん。夏美ちゃんの彼氏なんだから。彼女いるのに告ったって結果はわかるもん。」
すねたように言う琉美絵。まぁ、一理あるけど……。
「琉美絵。無世くん、けっこういいと思うよ。」
李江ちゃんまで⁉えぇ⁉……って私何慌ててんだろ?無世のこと、好きでもないのに。どっちかっていうと苦手なタイプだし。
「で、でも、まず話さないと⁉性格わかんないじゃんだからまず話してからじゃにゃいとだめでしょ。
「にゃい?ってなによ。てかなんでそんな慌てんのよ?まさか、来花も……。」
「違う違う違う番う違う!!」
んもう!琉美絵がいきなり変のこと言い出すからあわてたんでしょうよ!!
「と、いうわけで、アプローチの準備よろしくね♪来花、クラスのみんなと仲いいから、恋のキューピットにはもってこいだからね!」
……恋のキューピット、ね……。なんか、複雑……。