「ねぇねぇ無世くん。」
ホームルームの後。ぼくの机の 周りにはクラスメイトたちが殺到していた。主に女子。なぜ……。
「無世くんってどこから来たの?」
……嫌な質問だ。だって、ここは田舎で、ぼくは都会出身だから。
「……東京。」
「えー!東京なの?いいなー。おしゃれなお店とかたくさんあるでしょ?」
「おしゃれといえば、ついにこの近くにスタバリができたんだよ!」
「えー、ついにできたの、あそこ。」
「なによ、望美。嬉しくなさそうね。まぁ望美の家はカフェだもんね。ライバルだね。」
「じゃあ今度の日曜に望美のカフェにダンス部みんなで行こうよ!」
「いいね!じゃあそのあとはユオンによってプリを撮って……。」
女子って恐ろしい。あっという間にぼくの話題からカフェの話題になっている。
「なぁ無世、サッカー部に入らないか?」
今度は男子。確か彼はサッカー部副部長の鈴木だ。
「バカ、鈴木。無世は背が高いんだからバスケ部が勧誘するんだ。オレは佐藤そら!なぁ無世、バスケ部に来いよ!」
「おい佐藤!先にサッカー部が誘ったんだ。割り込むんじゃねぇ!」
「んだとぉ⁉やんのか?」
わー、どうしよ……。ぼくのせいで喧嘩になっちゃった?でもぼく部活は入らないから争われても困るんだよなぁ……。
「こら、佐藤に鈴木!争っちゃダメ!」
そう言って割り込んできたのは先生……ではなくてさっきの有世さんっていう女子。
「どの部活に入るかなんて無世くんの自由でしょ。あんたたちが争ったって結局、無世くんはどっちの部活にも入らないかもしれないじゃない。」
「うっ。」
「ごもっともです……。すまん、無世。」
「え、別にいいけど……。」
急に謝られても困る。だって部活に入る気ないんだから。
「ねぇねぇ無世くん!ちなみに無世くんはどの部活に入りたいの?」
有世さんが聞く。入りたい部活……。まぁ正直に言うか。どれにも入らないって。
「有世さんは何の部活なの?」
「え?私?」
しまった。やってしまった。なんで、こんなことを聞いてしまったんだろう、ぼく。
「私はね、吹奏楽部なの!トランペットを吹いているの。あ!無世くん、吹奏楽も似合いそうだよね。フレンチホルンとか吹いてそう。」
フレンチホルン。ぼくの嫌いな楽器の名前が出てきてドキッとする。有世さん、意外と鋭いぞ。
「有世さん、ぼくはどの部活にも入らないから。」
「え?なんで?入ったらいいじゃん。まぁ自由だけどさ。」
「入りたいものがないんだ。」
そう。ぼくはやりたいものがないいんだ。部活に限らず日常生活にも。だから、どの部活に入ったって意味はない。
「ほんとにないの?自分で部活を作ることだってできるんだよ?」
「……ない、です。」
つい、敬語になってしまうぼく。敬語を使うときは相手を敬うときと、相手に距離を取りたいときだとどっかの誰かが言っていた。まさに今は後者だ。もうこれ以上有世さんと話していたらどうにかなりそうだ。