だから、その峰岸が並みいるあまたの女の子を差し置いて、
『ねぇ、真中ちゃん。俺達つき合わない?』
そう語学教室で言い放った時、当の美里はもちろん、その場に居合わせた誰もがヒクリと息を呑んだ。
『…ダメ…かな?』
やがて教室中がざわめき出したが、峰岸は相変わらず真っ白いシャツの襟をピンと立て、長い脚を組み、頬杖をついたまま、まるで少女漫画に登場する薔薇の花をしょったロックスターのように、きらきら輝く瞳で美里だけをじっと見つめている。
このまま消えてなくなりたいような羞恥と戸惑いの中で、消えかかっていた微かなプライドが疼き出した。
あなた達が憧れてる峰岸くんは、このわたしを選んだのよという同性へのつまらない見栄もあって、美里が峰岸の手に堕ちるのにさして時間はかからなかった。
彼につき合ってほしいと言われたことで、自分が初めて東京に認められたような気がした。