「ねぇ、修司。こういうのいいよね。グループ交際っての?中学生に戻ったみたいでさ」
「笑わすなよ。そんなガラかよ」
「シッツレーね。あたしだって友達との三角関係に思い悩んで黙って身を引いた純な頃もあったのよ」
「あり得ねー、マジあり得ねー」
「ったく、感じ悪~。ねぇ、美里さん」
バックミラー越しに梨花子がちょんと小首を傾げた。
「あ、う、うん。ほんと、失礼よね」
作り笑顔で相槌を打ってはいるが、心中は穏やかではない。
井ノ原勇介―
賢のアパートで彼に会ってからだ。
美里の記憶は一瞬のうちに金沢の小さな町へとタイムスリップする。
放課後の校庭にこだまするブラスバンドの物悲しい響き。
校舎に沈んでいくオレンジ色の夕日。
ザックザックと近づいてくるスパイクの足音。
ふと見上げると、目の前にいるのは…
野球部のピッチャーで、背が高くて、悲しいくらいきれいな目をした男の子。