「クッソーっ、みんなお前のせいや」



爆笑の的になった倉田は、怒りの鉾先を賢に向けた。



いきなり飛びかかり、あっという間に寝技に持ち込んだ。



「やめろー!バルサーン!」



「言うなー!」



美里はキッチンの奥で、込み上げる笑いを噛み殺し、深呼吸を何度も繰り返して、ようやく息を整えた。



相変わらず隣の部屋では、大の大人が子供のようにドタンバタンと暴れているが、別段誰も止めようとしない。



「あの…」



自分のせいかもしれないと気が咎め、ひょっこり顔を覗かせた時、倉田の向かいに座っている、肩まで髪を伸ばした男と目が合った。



はっと目を引くような美男子ではないが、どことなく雰囲気がある。



けだるそうにくわえた煙草も、無造作に袖をたくし上げたダークグレーのセーターも悪くない。



少なくともこのアパートには不似合いのイケメンだ。