「えっと、こいつはこの下に住んでる商学部二回、二回っていっても三浪してるから…」
「それは言うな」
どっと笑いが起こった。
「倉田晴彦。仲間内では“バルサン”って呼ばれてるけど」
「バ、バルサン?」
美里はぽっかりと口を開けたまま、賢と倉田の顔を交互に見比べた。
「それも言うなら“ハルさん”やろ。こいつが勝手に付け替えたんですわ。
倉田さん、なんかゴキブリっぽいから、そっちの方がええですよって。
いくら虫が好きやっちゅうても、ゴキブリっぽいって、どうゆうこっちゃって…」
再び倉田と目が合った途端、美里は思いきり吹き出してしまった。
昔からそうだ。
ここで笑ってはいけないという場面に追いつめられれば追いつめられるほど、笑いが止められなくなる。
今まで何度もそれでしくじってきた。
「ごめんなさいっ…」
美里はなんとか態勢を立て直そうと、鍋を取りにいくふりをして、キッチンへと逃げ込んだ。