昨日の試合をドタキャンしたことを責められているのは、賢が言っていたあの豪腕ピッチャーのようだ。
「あー腹減ったなぁ」
誰かがポロリとこぼしたとき、美里はそーっと引戸を開けた。
「あっ、できたっ?」
キッチンから見て正面であぐらをかいていた賢が、思わず立ち上がった。
「う、うん。なんとか…ね」
この年頃の男子といえば年中空腹のようなものだが、ことさら肉の匂いはこたえるらしい。
夜食のつもりで作ったビーフシチュー。
本来ならば、しばらく寝かせた方がベターなのだが、そんな悠長なことを言ってられるかとばかりに座卓をひっくり返し、お膳の用意が整っていく。
「おい、賢。ちゃんと紹介せーよ」
賢の右側にいた、どこかの宅配屋さんのような縞のポロシャツを着た、いかつい風貌の男が賢を小突いた。