もう…まぁいっか。
とにかく、仕入れてきた材料をひとまず冷蔵庫に入れようと、スーパーのレジ袋に手を伸ばした時、隣に置いてあったトートバッグから赤いデニムのエプロンが顔を出していた。
いつかこういう時のためにと、お気に入りの代官山の雑貨屋さんで買い求めておいた、とっておきの一枚だ。
勢い込んできた自分の顔が、見る見る優しい表情に変わっていくのがわかる。
女の子にとって、エプロンとは特別のアイテムなのだ。
簡単に言えば、“エプロン―手料理―好きな人―結婚”の図式ができ上がる。
夕べは何度、このエプロンをつけて鏡の前で回ってみたことだろう。
「できるまで、絶対入ってこないでね」
「ええ?なんか“鶴の恩返し”みたいだな。覗いたら人間じゃなかったりして」
「ストーカーから助けてもらったお返しにね」
美里はキッチンの引戸をそっと閉め、その魔法のアイテムに手を伸ばした。