「汚いとこだけど、どうぞ」
駅前まで迎えにきてくれた賢に続き、恐る恐る部屋に足を踏み入れた瞬間、汗と煙草の入り混じったような匂いがプンと鼻をついだ。
そう言えば、賢が煙草を吸う所を見たことがない。
多分、ここに入り浸っている男友達のせいだ。
それでも、お酒を飲んだり、徹マンなどのおりには口にすることもあるだろう。
いや、案外、女の子が泊まったことも…あるのかもしれない。
今まで思いもしなかった賢の一面が生々しく迫ってきて、思わず肩に力が入った。
玄関を入ってすぐに座卓とテレビのある六畳間、その奥に物置とトイレ、和室の左手には刷りガラスの引戸のついた小さなキッチンがある。
建物はかなり古いが、部屋の中はさほど汚くはない。
ただ、衣服や雑誌、ゲーム類がいい加減に積み重ねられているのに対し、昆虫の図鑑や標本はきちんと整理されてあるのが賢らしく、少しほっとした。