あの時―



学食で再会するまで、美里の方では賢の存在など、すっかり忘れていた。



ただ、なりふり構わない賢の一途さに、一瞬でも胸がときめいたのは事実だ。



それは彼女がしばらく忘れていた心地よい感覚だった。



助けてもらったという弱みもあった。



その場の雰囲気もあった。



つい軽い気持でお茶をつき合って、つい、ついなんとなく…



で、今日まできてしまった。



縁とは不思議なものだ。



まさに紙一重のタイミング。



あの時、彼があそこで立ち読みさえしていなければ、



いや、わたしが通り過ぎる瞬間に笑いさえしなければ、



そしてあの時、二時限目が休講になって食堂に行きさえしなければ…



ここでこうして二人でいることもなかったろうに。