今年の梅雨はやけに長引いていた。



大学通りの喫茶店のガラス窓から、ぼんやりと雨模様を眺めていた美里は、ウエイトレスの靴音とともにからだの向きを元に戻した。



「お待たせしました」



美里の前に、ラベンダー色の小花柄を散りばめた華奢なティーカップがカシャリと置かれた。



ティーサーバーからオレンジ色に輝く熱い液体が注がれると、甘酸っぱい林檎のフレーバーがふわっと匂い立つ。



アップルティーの湯気の向こうに見えるのは、今にも溶け出しそうな賢の笑顔。



美里は、はたと考えた。



どうしてわたし、今…ここで…この人と…こうしてるんだろ?