熱したフライパンに小麦粉をまぶした牛肉を投げ入れる。
ジュッという音と油と煙が同時に上がる。
「う~ん、いい匂い」
思わずため息。
濃い目に焼き色のついた肉を鍋に移し、炒めた玉ネギを入れて火にかける。
鍋が温まったらブランデーを回しかけ、鍋をゆすってアルコール分を飛ばす。
「これが醍醐味よね~」
大学を卒業して三年半。
キャンパスで共に過ごした仲間も、思い思いの場所で、それぞれの新しい人生を歩み出している。
アナウンサーになって野球選手と結婚すると豪語していた真理は、テレビ局の試験に片っ端から落ち、新潟に帰って地方のテレビ番組のレポーターになんとか収まった。
美里がそのまま大学院に進んだこともあり、七年間大学に在学したハルさんとは思いのほか長いつき合いとなった。
そのハルさんも今秋、ようやく地元滋賀県の製薬会社に就職が決まった。