そんな誘惑に抗う気力も尽きようとしていた年の暮れ、美里は一人の少女と出会った。
児童相談所に送られてくる子供達は皆、多かれ少なかれ一筋縄ではいかない問題を抱えている。
が、14歳にして三度も鑑別所送りになったという彼女は札付きのワルで、その凶暴な性格にベテランの職員もすっかりお手上げ状態だった。
大声でわめき散らす、物を投げつける、人の顔に唾を吐きかけるは日常茶飯事。
自分より弱い者には容赦なく暴力をふるう。
針ネズミのように鋭い棘を張り巡らし、決して人を寄せつけようとしない。
年明けには教護院措置が決まっていたその少女が、何故か美里の前でだけ態度を軟化させるようになった。
どんなに暴れていても、美里の顔を見ると放心したように動きが止まる。
美里の声には耳を傾けようとする。