牛バラ肉は角切りで塩コショー。
玉ネギとジャガイモはくし形、ニンジンは乱切り。
「あっ…」
刃先の錆びた包丁が左手の人差し指をかすめた。
幸い傷は浅い。
爪先が薄く削げただけで大事には至らなかった。
美里はほっと胸を撫で下ろし、大きな深呼吸を一つして肩の力を抜いた。
卒業したら金沢へ帰るという父との約束を見事に破り、八王子の伯母の家を出て、一人暮らしを始めて今年で二年目に入る。
料理の腕もそれなりに上がってきたとは思うが、今日はいつもとは勝手が違う不慣れなキッチンである。
一応の道具は揃えてきたが、肝心なマイ包丁を忘れてきたのが悔やまれた。
面取りした野菜は水にさらし、しばらくおいて水気を切る。
小玉ネギは皮を剥き、八分通り茹でておく。
タイムとパセリの茎をベイリーフの葉でくるみ、たこ糸で縛ると…
えいっ、どうだ!
ブーケガルニの出来上がり。