包みを開けると、硬式野球のボールが転がり出た。
瑛子…
俺はおまえのこと、何もわかってなかった。
わかろうともしなかった。
最後まで、一人の女として愛してやることもできなかった。
それなのに、おまえは…
飲み残しのマグカップから微かに湯気が上がっている。
勇介は急いで窓を開けた。
「瑛子ーっ!」
毛皮のコートを翻し、瑛子が振り返る。
薄く広がる灰色の雲の切れ間から午後の陽射しが漏れ、瑛子の穏やかな笑顔を輝かせた。
「二度とここへくんじゃないよぉ!もう、あんたと遊んでる暇なんてないんだからね!」
瑛子…ごめん…
目頭が熱い。
気がつくと涙がふきこぼれていた。
勇介はボールを握りしめた。
掌が痛くなるくらい、きつく握りしめた。
そして、瑛子の笑顔に誓った。
本当に大事なものから逃げない。
もう二度と…。