「あの子さぁ、児童相談所で働きたいんだってよ」
「えっ?」
「あんたとは生きる世界が違うんだって、随分前に言ってやったの。その時は尻尾丸めて逃げ出したけど、今度はそれを飛び越えるらしいわよ」
「真中…が…」
「…ったく、どうしようもない甘ちゃんよね。すぐに逃げ出すに決まってる。地獄よ。あたしは二度と関わりたくないわ」
瑛子はスクェア型の小さな灰皿を鏡台に置き、煙草を取り出し、火をつけた。
「亜弓ちゃん…って五年生の子がいるの」
目を細め、鏡に向かってゆっくりと煙を吐きかける。
「不仲だった両親が離婚して、その子だけが酒乱の父親に引き取られたって。
彼女、幼い弟と母親を守るために自分を犠牲にしたっていうの。
じゃあ、その子は誰が守ってくれるっていうの?」
煙草をくゆらす指が震えている。
勇介は押し黙ったまま目を伏せた。