追伸―

俺は悟りを開いた修行僧ではない。

正直、ドロドロと煮えたぎる憎しみや苦しみをまだ乗り越えられずにいる。

だが、その負のエネルギーをすべて昆虫の研究に注ぎ込んでみるつもりだ…なんてな。

中川 賢』



そこには、愛する人の幸せを祈り、夢を追いかけて未開の地へと旅立つ男の姿があった。



何と潔いことか。



何と男らしいことか。



真中は…



真中は…賢を、選ぶべきだった…。



嫉妬にかられ、つまらぬことを口走ってしまった夜、自分のちっぽけさに嫌気がさした。



このまま消滅してしまいたいと思うほど落ち込んだ。



ボクシングを始めたのは、そんな自分をとことん痛めつけたかったからだ。



ボクシングに生きる喜びを見い出したわけではない。



結局はそれも現実から逃げる口実だったのだ。



俺の存在価値って何だ。



俺が生きることに意味なんてあるんだろうか。



勇介は便箋をパラパラと放り投げ、再びベッドに寝転んで天井を見つめた。