『おまえは俺を疑いもしなかったのか。
いや、そんな余地もないほど切羽詰まっていたからか。
それはさておき、俺は約束を破った。愛する人を欺き、姑息な手段で愛を手にしようとした。
俺は一番軽蔑していた人間に成り下がってしまった。これでおまえと同類だ。
美里さんの目は、いつもおまえを追っていた。
遊園地へ行った時、シチューをぶちまけた時、いや、本当は俺の知らない、もっと前からなのかもしれない。
それでも、彼女は一生懸命気持を立て直そうと努力してくれた。おまえを振っ切り、俺を受け入れようとしてくれた。
それが嬉しくもあり、悲しくもあった。人を好きになるのに、努力なんて無意味な言葉だ。
俺は南米へと発つが、同情だけはしないでくれ。
俺が地球の裏側からできるのは、愛する人の幸せを心から祈ることだけだ。
美里さんにとって、それがおまえと共に生きることにあるのなら、俺は喜んで身を引くつもりだ。