『賢か?あ、ああ。ちょうどいい。いいから聞いてくれ…』
賢の用件を聞く余裕もなく、一方的に美里への伝言を託すと、瀕死の瑛子とともに救急車に乗り込んだ。
勇介の応急処置もあり、瑛子はなんとか一命を取り留めた。
しかし、麻酔から醒めた瑛子は痴話喧嘩の果てに切りつけてきたのは勇介の方だと言い張った。
事情聴取に駆けつけた警察も、このまま勇介を帰らせるわけにはいかなくなり、留置所に拘束されるはめになったのだ。
ガシャンと鉄格子のドアが閉まると、数分後には闇と静寂がもたらされた。
勇介の頭の中で、瑛子が手首を切ったシーンが何度も何度もリプレイし、コンクリートの壁や床は見る見る血に染まった。