クソッ。
勇介はムキになって瑛子からナイフを取り上げようとした。
「やめて!」
瑛子が反射的にナイフを引っ込めた時、刃先が勇介の指に当たり、鮮血が畳の上にしたたり落ちた。
「あの子だけは…許さない…」
血の匂いは彼女に忌まわしい過去を蘇らせる。
瑛子は両手でナイフを握りしめたまま、石のようにからだを硬直させた。
勇介はようやく我に返った。
「もういい、今日はもうこの話はやめにしよう。ほら」
勇介は精一杯の優しい声で、手を差し出した。
「危ないぞ。ナイフを下ろせ」
数秒間の沈黙の後、瑛子は突然狂ったようにナイフを振り飾してきた。