帰りは近くの駅まで亜弓を送って行った。
二人に残された時間が短くなるにつれ、亜弓の顔に射す影が濃くなっていくようで、胸が痛かった。
つらいのは、本当に話を聞いてほしいのは亜弓の方だとわかっていながら、一人しゃべり続けた自分が虚しかった。
それでも懸命に虚勢を張り続けている亜弓の仮面をひっぺがし、抱きしめてあげるだけの勇気も覚悟もまだ美里にはない。
美里は自分の無力さを痛感していた。
亜弓の行き先には何も待っていない。
優しい母のお帰りなさいの声も。
あどけない弟の泣き顔も。
温かい夕食の団欒も…
何も、ない。
ただ暗くて深い闇があるばかりだ。