沈み行く夕日を見つめながら、美里は校庭の片隅で勇介を待っていた。
ブラスバンドの物悲しい音色が響くと、胸がキュンと小さな音を立てる。
ザックザックと近づいてくるスパイクの足音…
しかし振り向いた時、そこには誰もいない。
『井ノ原くん!』
自分の声で目が覚めた。
ふと見ると、枕が濡れている。
美里は頭をぶるぶるっと振った。
カーテンを開けると、日はすっかり高くまで昇っている。
眩しさに眉をしかめ、枕元の時計へと視線を落とす。
「十時かぁーっ、よく寝たぁー」
太陽の光というものは、どうやら人間をとことんポジティブにしてくれるらしい。
この後に及んで、まだ性懲りもなく勇介の夢を見てしまった自分の不甲斐無さを一笑に伏すと、美里はもう一度ベッドにダイビングした。