静かな夜だった。
通りを行く人影も車もない。
賢の心臓の鼓動だけが脈打つように聴こえる。
ロウソクの火が消えるように、アールグレイを照らしていた明かりがふっと消えた。
「美里さん…」
賢は首を斜めに傾け、美里の顔を覗き込んだ。
美里は涙に濡れたまつげを上げた。
「賢ちゃん…ごめ…」
賢のささくれた指がみさとの唇に触れた。
「きみを……愛してる」
そう言った途端、賢の目からも涙がこぼれ落ちた。
ごめんね…賢ちゃん。
美里は心の中で呟いた。
そして、そっと目を閉じた。
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