「そうね。確かにそうだけど…誰にだって過ちはあるわ。

彼、あの時のこと、すごく後悔してた。生きてても意味がないと思うくらい落ち込んだって。

でも…さっき、わたしに言ったわ。

今はボクシングに賭けてみたいんだって。自分の生き方を変えるチャンスなんだって。瑛子さんともきっぱり別れて、一からやり直すんだって。

わたし…彼を信じたいの」



美里はすがるような目を向けた。



賢は眉を寄せ、視線を落とした。



その顔は苦痛に歪んでいる。



数分間の沈黙の後、賢はようやく何かを振っ切るように顔を上げた。



「無理だ。あいつは瑛子さんと…別れることなんてできない」



「えっ?」



「何時に…勇介と会う、約束を…」



「え…そう、確か、五時までには戻ってくるって…」