「寒かった?」
「え…ううん」
「嘘だね。頬っぺが赤いよ」
美里は慌ててコーヒーをゴクリと飲み込んだ。
「あつっ!」
「ふふっ。だから言ったでしょ。気をつけてって」
二人は顔を見合わせて笑った。
賢のさりげない一言一言が、美里に差し向けられる温かい微笑が、勢い込んできた美里の心をゆるゆると解いてゆく。
二人の間に忘れかけていた穏やかな空気が流れた。
目覚めに飲む一杯のホットミルクのようなまったりとした心地よさ。
そんな小さな幸せに埋もれてしまいそうな自分に鞭打つべく、美里は沈黙を破った。
「今日、ここへ来たのは…」
賢は静かに頷いた。
「亜弓ちゃんのことなの。彼女、転校しちゃったんだね」
「ああ。どうして、それを?」
「小学校の近くを通ったもんだから…訪ねてみたの。そうしたら、おばさんが…」