腕時計の短針は今にも六時を差そうとしていた。
冬のキャンパスはすっかり暗い帳で包まれ、理学部へ向かう道は不気味なほど静まり返っている。
構内図で研究室の場所を確かめ、エレベーターで四階まで上がる。
扉が開いた途端、ホルマリンの匂いがプンと鼻をついだ。
何十種類もの小動物の剥製が入った瓶が延々と並ぶ廊下を歩いているうちに気が滅入ってきた。
強い決意がそろそろ後悔に変わり始めた時、ポツンと一つ、明かりのついている教室を見つけた。
窓越しにそっと中を覗くと、白衣の男子学生が一人、虚ろな眼差しでモルモットのハムスターに餌をやっている。
賢だとすぐにわかったが、何と言って声をかけていいのかわからず、しばらく廊下で様子を伺っていたが、ふと賢が視線を上げた時、目が合ってしまった。
「美里さん?」
賢はガラガラッと扉を開け、戸惑いの表情を浮かべる美里を迎え入れてくれた。