『俺は、おまえを、愛してるんだと…』



『本当に大事なものから逃げないと決めたんだ。たとえ、それが誰かを傷つけることになったとしても…』



「井ノ原くん…」



そう声に出して呟いた瞬間、勇介への想いが堰を切った濁流のように流れ出した。



愛してる。



わたしだって愛してる。



本当の自分の気持に、もうこれ以上嘘はつけない。



あなたに会いたい。



気がつくと、美里はアールグレイの凍てつくような真鍮の取手を握りしめていた。



しかし、その取手を押すことがどうしてもできない。



彼を愛してる。



その愛に偽りはない。



それでもその想いが強ければ強いほど、愛に溺れて何もかも見えなくなってしまう自分が怖くなったのだ。