「ありがと。ほんと、助かったわ。じゃ」



「えっ…あ、きみ、名前は…」



しかし、彼の最後の声は彼女には届かなかった。



二、三人の女の子の輪から、一人が抜け出し、こちらの方へ駆けてきた。



「美里ーっ、フランス語のノート写させてぇ~」



「またぁ?」



「バイト抜けらんなくてさぁ…ねぇ、誰よ?彼?」



「まさか。やだぁ、もう…」



「そうなの?ふふふっ…」



じゃ…って…



そんな…。



その場にポツンと取り残された男、中川 賢(ナカガワ ケン)は、ただ呆然と立ちつくすだけだった。