いっそ彼の胸に飛び込んでみたらどうだろう。
失って立ち直れないものなんて、わたしはまだ何も手にしていない。
先のことにあれこれ思いを巡らせ、今ほしいものを手放したら、一生後悔するかもしれない。
どうしようもなく勇介になだれ込もうとする気持を、二本の綱が懸命に引きとめている。
一本は嵐の中で受けとめた賢の一途な想い。
そしてもう一本は、恋にばかり翻弄されないで夢を見つけようともがいている自分自身。
その綱が今にもぷっつり音を立てて切れてしまいそうだ。
喉がヒリヒリと締めつけられるような息苦しさを覚えた美里は、胸いっぱいに空気を吸い込んで深呼吸をした。
とにかく…とにかく、まずは冷静になろう。
頭の中を整理するためにも、誰かに話を聞いてもらおう。