濃い緑にショッキングピンクのコントラストが目にも鮮やかなツツジ通りを抜けると、赤茶色の煉瓦創りの建物が全貌を現した。
中庭にある噴水は滔々と水をたたえ、飛び散る水飛沫の中に学生達のキャピキャピとした笑い声が弾んでいる。
美里は男の耳元でそっと囁いた。
「ねぇ、さっきのやつ、来てない?」
「…お、俺、顔見てないから」
男は慣れない社学のキャンパスで、すっかり固まってしまっている。
「不審なやつは?」
美里にせがまれ、男は恐る恐る振り返って、ぎこちなく辺りを見渡した。
「あ、ああ。それらしきやつは、誰も…」
「あー、よかった!」
そこで腕をするりと抜け、いったん真っ直ぐに向き合った。