「俺、ボクシング始めたんだ」



「ボクシング?」



「ああ、職安の近くにジムがあってね。

ボーッと見てたら会長に声かけられた。

『おまえ今どき見ないハングリーな顔だな』ってさ」



痩せてはいるが、やつれてはいない。



尖ったナイフのように研ぎ澄まされた面構えはそのためだったのか。



「今はボクシングに賭けてみたいと思ってる。

これが自分の生き方を変えるチャンスだと思う。

自分の気持に整理をつけるためにも、真中にそれが言いたくて…

それから、瑛子にも…」



そうだ。瑛子さんがいる。



彼を見守ってきたのはわたしじゃない。瑛子さんだ。



「きっと瑛子さんも応援してくれるわ」



「いや…あいつとは、今度こそきっぱり別れるつもりだ」



「何言ってるの。瑛子さんには井ノ原くんしかいないのよ」