バランスを立て直した勇介は、含み笑いを浮かべ、賢の肩に手を掛けた。



「博士、喧嘩ってのは、こうやんだよ」



グシャリという鈍い音とともに、勇介の拳が賢の頬にめり込んだ。



賢は山積みになったトイレットペーパーのサークルに倒れ込んだ。



勇介は止めに入ったカオルの腕を振り払い、賢の胸倉をつかんで凄んだ。



「ガラにもねぇことすんじゃねぇよ」



賢は手の甲で唇に滲んだ血を拭った。



「うっ…ゴホッ、美里さんを苦しめるやつは…許さない」



賢は怒りに燃える目を勇介に向けた。



美しい目だった。



その目からは、憎しみも、恨みも、蔑みも伝わってこない。



ただ、自分のプライドをかなぐり捨てても、愛しい人を全身全霊で守り抜こうとする男の姿がそこにあった。



勇介は思わず目を反らせた。