大して何もなかったように二人に背を向けた勇介は、カオルの方へと歩き出した。
おい、勇介、血迷ったか!
ポーカーフェイスの仮面の裏で、もう一人の自分が責め立てる。
「知ってる人?」
「いや」
カオルが手にしていたレジ袋を奪い取り、もう片方の手で彼女の腰を抱き寄せた時、
「勇介…」
振り返ると、目の前に賢が土気色した顔で立っていた。
「何だ?」
いきなり賢の拳が宙を切り、勇介の頬をかすめた。
驚いて咄嗟に身をかわしたが、その拍子にレジ袋から玉ネギや缶ビールが四方八方に転げ出した。
「キャー!」
カオルが悲鳴を上げた。