女の性が目覚めてゆく。
これが愛されてるということなのか。
この人を守ってあげたい。
母性も一緒に目覚めてゆく。
これが人を愛しいと思う気持なのか。
まだどこかに残っていた理性が囁きかける。
嵐のせいかもしれない。
しかし、それは濁流に呑み込まれ、あっという間に押し流されていった。
「もしものことがあったら…」
それならばそれでいい。
これが天の授けた運命なのかもしれない。
「俺は…もう、生きてる意味がないから」
美里は賢の背中に回し指先にギュッと力を込めた。
瞼の裏に焼きついて離れなかった遠い目が、だんだん光を失っていく。
人は想い出の中だけでは生きてゆけない。
確かな現実の温もりの中で、それはやがて見えなくなった。