バシッ。
賢はいきなり美里の頬を平手で打った。
「キャッ!」
賢の後ろで亜弓が小さな悲鳴を上げた。
かばっていた右足の軸がバランスを失い、美里は大きくよろめいた。
賢はすかさず美里の腕を支えたが、再び目が合った刹那、もうこれ以上自分の気持を抑えられないとばかりに美里を抱きしめた。
「どんなに心配したか。あなたにもしものことがあったら…」
不器用で激しい抱擁だった。
賢の真っ直ぐな想いが、美里の心を射抜いた。
愛されてる。
その恍惚とした感覚が、からだ中の隙間をひたひたと埋めつくしていくような気がした。