「どこかに避難しなくちゃ」



「わたし、知ってる」



亜弓は気丈にも美里をかばいながら、水道を捜している時に見つけたという小屋まで連れて行ってくれた。



扉に手をかけると、ギーッと軋んだ音がした。



中には誰もいない。



自販機の電気だけが煌々と辺りを照らしている。



ベンチに座った二人は、からだを拭き、防寒着を羽織り、熱いカフェオレをすすった。



缶コーヒーの甘さが胸に沁みる。



「もう、肝心な時に役に立たないんだから」



美里は繋がらない携帯に毒づき、上着のポケットに突っ込んだ。



ふと亜弓はと見ると、自販機の灯りを見るとはなしに見つめている。



いったん開いたように見えた亜弓の心の扉は、すっかり閉ざされてしまっていた。