雨は一段と激しくなってきた。
ぬかるんだ苔に足を滑らせた美里は、剥き出しになった楠の根っこに躓いて転んだ。
すぐに起き上がろうとした時、右足首に激しい痛みが走った。
「亜弓ちゃーん!亜弓ちゃーん!」
せめて声だけでも届けと叫んだが、雨音に消されて遠くまで響かない。
見上げた空が見る見る黒雲に呑み込まれてゆく。
わたし、何やってるんだろう。
亜弓ちゃんを助けるつもりが、こんなことになるなんて。
こんな大事な時に、子供達を守ってあげなきゃいけない時に。
賢ちゃん…ごめん。
自己嫌悪と絶望感で涙が溢れた。
どこからが涙なのか雨なのか、もうわからない。
と、突然、目の前の広葉樹の茂みがガサッと大きく揺れた。
美里は一瞬、息を殺した。