神の意志が宿る霊山として古くから崇められているこの山は、ちっぽけな人間が心を閉ざし続けることを許さないのかもしれない。
すっかり無邪気な笑顔を取り戻した美里は、ここぞとばかり亜弓に声をかけてみたが、ほとんど反応がない。
賢でさえ手こずっているというのだから、わたしなんかにはとうてい無理かと諦めの境地だった。
しかし、とうとう帰り支度をする時になって、その亜弓の姿が見当たらなくなってしまった。
六年の女の子がトイレの前で見かけたらしいが、その後は誰も知らないと言う。
賢の顔から笑い皺が消えた。
最後に亜弓の姿を見かけてから、もう三十分以上立っている。
きっと亜弓も自分が迷子になったことに気づいた頃だ。
怖くなって、あちこち歩き回っているに違いない。
どんな山でも、道に迷った時はじっと救助を待つのが鉄則だ。
動けば動くほどやっかいなことになる。