長い柄の捕虫網を大事そうに抱え、鼻の穴をピクピクさせて戻ってきた賢を子供らがワーッと取り囲んだ。
「ほら、そーっと触ってごらん。
トンボの羽根は軽くて強い構造になっていて、この中にはちゃんと血液も通ってるんだ。
この羽根から血を吸う小さな蚊もいるんだよ」
賢は網の中から一匹のトンボを取り出し、子供達一人一人に触らせた。
「えーっ、本当?」
「羽根も痒いのかな?」
「これ、ギンヤンマ?」
「これはね…」
流行りのスポットやブランド名の一つも知らない賢が、虫だけでなく、草や木や野外の遊び方まで、いろんなことを知っているには驚かされた。
ちょっとズルイぞ。
大学で見るより百倍も輝いている賢の姿を、美里は微笑ましく見つめ返さずにはいられなかった。