「ほら、なんか話して」
「な、何を?」
「何でもいいから、楽しそうに」
「ああ、ああ。あはっ、あははははっ」
ダメだ、こりゃ。
こっちから何とか話題作んなきゃ。
えっと…
火事場の馬鹿力と言うか、真っ直ぐに一生懸命やることしか脳のない、世間知らずのお嬢さんのくせに、窮地に追いつめられると、とんでもない力を発揮する―
昔から美里にはそんなところがあった。
幸い、相手はいかにも気の弱そうな男だった。
後は勢いで寄り切るだけだ。
美里は突如、男の腕に自分の腕を絡ませた。
男のからだは一瞬硬直した。
が、次の瞬間には、その腕をぐいと引っ張って歩き出していた。